大阪文学学校の卒業作品であり処女作。大阪を舞台に、大火、風水害、戦争、次々と訪れる肉親の死…と多くの苦難を逞しく生き抜く女の一生を描く。お聖さんの小説はどれもそうだが章の題にそれぞれ深い意味がある。始まりは近松門左衛門の曽根崎心中の世界と思いきや(私は曽根崎心中についてほとんど知らないが)見事に裏切られ、新しい物語が始まる。前半ひきつけられて面白かった。「月弓」では主人公の視点からではなくおるいの視点から主人公が対象化して描かれ、その後おタツ(主人公)とおるいの対照的な性格の設定がますます生かされる。